関連事業者

日本の丸紅、三菱商事、住友商事、伊藤忠商事、三井物産などの大手総合商社は、国内外で石炭関連事業を推進してきました。近年、大手商社は世界的な脱石炭の流れに押され、石炭に関する新方針を発表したり、保有する石炭権益を売却したりするなど脱石炭に向けた動きを加速してきていますが、いまだに新規石炭火力発電所の建設に関わっている商社もあり、早期の撤退が望まれます。

世界中の多くの国で石炭よりもクリーンで安価、かつ信頼性の高い再生可能エネルギーに電力市場が移行する中、次々に原則、新規事業に参画しない意向を示し、石炭火力については総合商社大手5社(三井物産、丸紅、三菱商事、住友商事、伊藤忠商事)が足並みをそろえた形となっています。しかし、各社の方針は新規事業に対する停止であり、既存事業については撤退に踏み切れていません。

大規模石炭関連事業に関わる大手総合商社の動きをまとめます。

丸紅

丸紅は発電事業に携わる世界最大級の企業です。世界各地で、石炭の採掘およびインフラだけでなく、石炭火力発電所の建設と操業にも積極的に関与しています。

2018年9月18日、丸紅は新規の石炭火力発電事業は今後手がけず、また、自社の発電ポートフォリオにおける石炭火力発電事業によるネット発電容量を、2018年度末見通しの約3GWから2030年までに半減するとした方針を発表しました。2019年10月にはボツワナのモルプレB石炭火力発電事業およびアジアの2案件からの撤退表明を発表(アジア2案件については詳細不明)、2020年11月には南アフリカ共和国のタバメシ石炭火力発電所新設プロジェクトから撤退すると発表しました。さらに、2021年3月9日、2050年までに温室効果ガスの排出量をネットゼロにする長期目標を発表しました。石炭火力発電所の設備容量を半減させる方針を2030年から5年前倒しとし、2050年のゼロを目指すとしています。しかし、以下に示した計画中・建設中の大型案件への関与については、継続を続けています。

インドネシア

インドネシアではチレボン石炭火力発電事業の1号機(660MW)が操業中、2号機(1,000MW)が建設中です。2号機の事業は、地元政府が不当に環境許認可を発行したことで、結果的に生計手段を失った地域住民が同許認可の違法性を裁判で訴えました。また、2号機の事業では、贈収賄事件も持ち上がっており、インドネシア汚職撲滅委員会による調査が進められています。

ベトナム

ベトナムではギソン2石炭火力発電所(1,200MW)が建設中です。ベトナムではすでに深刻な大気汚染が問題になっており、そのために毎年2万人の早期死亡リスクが報告されています。大気汚染の主な原因の一つは石炭火力発電所によるものです。丸紅はギソン2の株式の10%を自社保有株から東北電力に譲渡するなどしてポートフォリオの削減を図っていますが、温暖化対策としても大気汚染対策としても何ら効果のあるものではありません。

フィリピン

フィリピンのパグビラオ石炭火力発電所の1・2号機(出力計73万5,000kW)は、丸紅とJERA(東京電力と中部電力の共同出資)が共同運営するティームエナジー社によって運営されています。丸紅は、1・2号機に隣接する3号機(運転開始2018年3月、出力420MW)の増設・運営にも関与していますが、1・2号機の操業の開始以降、石炭貯蔵場からの粉じん飛来に起因するとみられる健康被害にさらされてきた地域住民は、3号機の増設に懸念を示していました。ティームエナジーは、スアル石炭火力発電所(121.8万kW)と、イリハン発電所(天然ガス・コンバインドサイクル、出力125.1万kW)も運営しています。

日本

丸紅が、関西電力グループの関電エネルギーソリューションと秋田市に計画していた石炭火力発電所(秋田港火力発電所(仮称):65 万 kW 2 基、計130万kW)は、環境影響評価(アセスメント)手続きは終了し、2019年着工、2024年の運転開始を予定していました。しかし、2019年8月時点で着工は見送りとなっています。丸紅は秋田港に大型洋上風力発電所の建設・保守・運転を行うプロジェクトを進めていますが、石炭火力発電所計画の中止の公式発表はありません。

三菱商事

 

2019年12月、三菱商事は「ESGデータブック2019」を公表し、原則として、新規の石炭火力発電の開発を行わない方針を表明しました。しかし、「既に当社として開発に着手した案件を除き」との注釈が付けられており、「2℃シナリオ下でのシナリオ分析結果も踏まえた上で」との文言に対し、不十分な対策となっています。資源事業については見直しを進め、保有していたすべての発電用石炭(一般炭)の権益を2019年までに売却した一方、ブンアン2石炭火力発電所の建設を継続する意向を示していることで、批判にさらされています。三菱商事は、同じくベトナムで計画しているビンタン3石炭火力発電プロジェクトからの撤退方針を固めたと報じられていますが、他の案件についても早期撤退が求められています。

ベトナム

ブンアン2石炭火力発電事業(1,200MW)

ブンアン2に対しては、2020年10月、北欧の機関投資家ノルデアをはじめ、アムンディ、AP7、アリアンツなど欧州を中心とした21の投資家連合が事業に参加する三菱商事などに撤退を要求する書簡を提出しています。

日本

広野IGCCおよび勿来IGCC(石炭ガス化複合発電)(各543MW)

三菱商事は、関連子会社を通して福島県内の2カ所(広野、勿来)における、石炭ガス化複合発電(IGCC)プラントの建設および運用に関わっています。広野は現在建設中、勿来は2020年2月24日より発電を開始しています。

住友商事

2019年8月、住友商事は「統合報告書2019」を発表しました。同報告書の中では、今後、石炭火力発電事業と炭鉱事業の新規開発を行わない方針が発表されており、2020年10-12月に米シェールオイル開発事業の権益を売却し、同事業から撤退済であるとしています。石炭火力発電事業については、同社が運営していた西オーストラリア州のブルーウォーターズ石炭火力発電所(434MW)事業で金融機関からの融資借換が不可能になったことにより、約250億円の損失を出したことが報道されました。同社が今も関与を続けている計画中・建設中の石炭火力発電所は以下です。また、バングラデシュのマタバリ2石炭火力発電事業の建設等への関与が想定されています。

インドネシア

タンジュン・ジャティB石炭火力発電事業・再拡張(計2,000MW)

ベトナム

バンフォン1石炭火力発電事業(1,320MW)

伊藤忠商事

伊藤忠商事も、2019年2月に、新規の石炭火力発電事業の開発および一般炭(石炭)炭鉱事業を獲得しないとの方針を発表しています。同時期にオーストラリアのIMEA社を通じて保有するRolleston一般炭炭鉱の全持分権益を売却し、2021年1月には、2023年度までの中期経営計画の骨子として、発電用燃料に使われる一般炭の権益から完全撤退する方針を示しました。2月には同社が保有する一般炭(発電用石炭)権益の8割に相当するコロンビアの発電用石炭の鉱山権益を2021年度中に売却すると発表発電用石炭(一般炭)権益のすべてを売却する方針を表明するなど、石炭関連事業を縮小させてはいますが、同社が深くかかわる建設中の石炭発電所事業では住民の反対運動が続いています。

インドネシア

バタン石炭火力発電事業(2,000MW)- 工事中

三井物産

三井物産は、2020年10月に、中国インドネシアマレーシアモロッコで保有する石炭火力発電事業の権益を、2030年までに売却する意向を表明していましたが、安永竜夫社長は2021年1月のインタビューで前倒しで検討していくことが必要との見解を表明しました。報道によると、早ければ2021年中にも海外石炭火力発電事業からの撤退を始める方針が示されており、ブラジルの資源大手バーレとモザンビークで協業する炭鉱・港湾インフラ事業については、保有持ち分と付随する融資をそれぞれ1ドルでバーレに譲渡することで基本合意したと公表されていますが、発電事業からの撤退も急がれます。

商社は、新興国の需要増を背景に石炭火力発電事業を伸ばしてきましが、脱石炭・脱炭素を求める投資家の意向は無視できないほど強くなっています。また、発電所建設に向けた事業融資(プロジェクトファイナンス)には保険加入が前提となりますが、損害保険大手も相次いで脱石炭の姿勢を表明しています。商社の方針同様、穴があるとは云え、SOMPOホールディングス(HD)、MS&ADインシュランスグループHD、東京海上HDの3メガ損保が「脱石炭火力」に足並みを揃えています。保険会社、機関投資家などからの脱石炭の圧力がますます高まる中、商社を含めた石炭関連事業業は、石炭からの早期撤退を迫られています。

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No Coal Japan の要望

No Coal Japan は現地NGOおよび国際的なNGOとともに、以下の点を関連事業者に求めます。

  • 抜け穴だらけの脱炭素化方針を修正すること
  • 事業の段階を問わず、石炭事業を取りやめもしくは中止にすること
  • パリ協定の目標と矛盾しないよう、既設発電所の操業中止に向けて積極的に行動すること